アーティストインレジデンス 宮崎・えびの市で初開催!ヨロコビto×アグリテル 2025年度レポートVol.1 〜⻄⾕さん滞在中の⽣活編〜


「農業体験」と「宿泊」を掛け合わせ、“最⾼にうまい”を体感できる宿泊施設を運営する株式会社Terra様とヨロコビtoとのコラボにより、今回初めて宮崎県・えびの市での「アーティストインレジデンス」が実現しました。
2025年5⽉、1名の作家が宿泊施設「アグリテル」の離れに約1か⽉滞在し、制作を⾏いました。その後1年間、作品は「アグリテル」に展⽰されます。
今回は、滞在作家・⻄⾕直⼦さんと、作家を受け⼊れてくださった株式会社Terra代表の池内学さん・優希さんご夫妻にお話を伺いました。
第1弾では、⻄⾕直⼦さんに滞在中の⽣活について語っていただいたインタビューをご紹介します。



―滞在制作の環境について教えてください。

アグリテルさんのメイン施設は廃校を改装した宿泊所なのですが、私はそこから⾞で15分ほどの古⺠家型の宿泊施設、「松形邸」に滞在しました。⼩学⽣のサッカーチームも泊まれるくらい⼤きな⼀軒家で、制作もその離れで⾏なっていました。
松形邸は「落ち着く空間」で、どこで描こうかなと思って、家の中をうろうろして、あちこちにパネルを置いてみたりしました。夜は室内でも暗くなるので、電球をひとつ買い⾜しましたが、やっぱり夜に描くのは難しく、朝の光で描いて、⽇が暮れたらもう辞めるっていう、そういう本来の⽣活リズムに戻れた気がします。でも、ついつい夜も⼿を⼊れたくなって。翌朝⾒て「えっ、ちょっとこんな⾊じゃなかったはずなんだけど」って驚くことはありました(笑)。




―滞在中の⼀⽇のルーティンは?

東京では割と夜型ですが、滞在中は⾃然と早起きになって、6時半ごろには⾃然に⽬が覚めていました。お湯を沸かして、前⽇の晩ごはんを温め直して簡単に朝⾷を済ませ、天気がいい⽇は近くの⼟⼿や川まで歩いたりしました。
歩いて⾏ける距離にある「飯野城跡」にもよく⾏きました。 すごく眺めがよくて、朝に⾏くと気持ちがいいんです。昨⽇まで咲いていた花が数⽇後にはまったく違う姿に変わり、筍が「あれ!?こんなに⼤きかったっけ!」っていうぐらい伸び、同じ場所でも1週間で⾃然が劇的に変わるんですよね。緑の⾊合いも⽇によって違うし、時間帯によって苔の輝き⽅が変わる。とにかく緑が輝いていて、まるで緑が「元気!元気!」って歌ってるような感じがして、とても気持ちよかったです。
制作するかどうかは、その⽇の「お天気次第」という感じでした。晴れて明るい⽇はすぐ描き始めて、朝からお天気が悪かったりすると、すぐ観光モードに気持ちを切り替えて、池内さんに教えていただいた場所に赴き、⾏く先々でたくさん収穫がありました。



―滞在したえびの市で印象に残っている場所はありますか?

最初に⾏った湧⽔池は、⽔の美しさに思わず「わー!」って声が出ました。あと「鶴丸温泉」ですね。お湯が茶⾊くて⿊っぽい温泉で、昔ながらのおばちゃんたちが集う場所なんですけど、温泉好きが全国から来そうな、泉質のよい温泉でした。
それから「陣の池」。えびの周辺は綺麗な池がいくつかあるのですが、あの景観は特別で本当に⾏ってよかったと思える場所です。私は⽔を⾒るのが好きなので、ずっと眺めていられちゃうんですよね。透明な⽔って底の深さが計り知れなくて、浮かんでいるものの影が⽔底で別の形になって動く様⼦が綺麗で癒されるんです。⽔⾯をずっと眺めていると何⾊もの⾊が⾒えてきて、「これをどう混ぜたら絵に表現できるんだろう」と考えたりもします。
それから、⽔という「⾒えない空気」の中に⽣き物が⾏き交っているのを⾒ていると、別の世界を覗いているみたいで⾯⽩いんです。しかもその⽔が⾃分の体の7〜8割を占めていると思うと、不思議なつながりを感じられて…。本当に飽きないですね。



―アグリテルの池内夫妻との関わりはありましたか?お⼆⼈の印象は?

池内ご夫妻には滞在中、数々お世話になりました。滞在早々にえびのの美味しいカレー屋さんに誘っていただいて、そこで初めてお⼆⼈とお話しました。その後はアグリテルで顔を合わせた時に⾔葉を交わすこともありましたし、池内さんから「えびので⾏くべきオススメのスポット」が指令のようにメールで届いて、それを⼀⽣懸命こなしました(笑)。
それから、おいしい野菜もいただきました。⼀度、⽩菜ぐらいの巨⼤なニラを⼤量にくださったことがあって、普通だったら「⾷べきれないから、これだけいただきます。」でよかったんですけど、「池内さんが⾷えって⾔うんだったら⾷べられるのかな」と思って。結果、全部⾷べたんですよ。四半世紀分のニラを⾷べ尽くしました。初めてニラを麺類のようにすすりましたよ(笑)。⼤きな池内さんが運ぶ⼤量のトマトやニラは強烈なインパクトで、やはり絵にも登場してしまいました。
池内さんは、私にとっては「⽥の神さあ」(豊作をもたらす九州の神)です。地元にドンっといて、いろんなものをニコニコしながら⾒ていて。ちょっと厳しいこともやるけれど、この⼟地を愛する守り神のような存在です。優希さんも守り神。⼥神様ですね。チャーミングでかわいらしくて。意識的ではないんですけど、私の絵に登場する横顔の⼥の⼦が、どこか優希さん似ているような気がして。池内さんに 「この絵、かわいいですね」って⾔われた時は、あぁそういうことね、と思いました(笑)。



―地域の⽅の印象は?

とにかく出会う⼈みんな気さくで明るくて、フレンドリーなんですよね。地域の⽅々が本当に穏やかで、「⽥の神さあ」の⽯像のようにニコニコしていて。気づけばこちらまでゆったりしてしまう感じでした。神社に⾏くたびに思ったんですけど、狛⽝や仁王像まで可愛いんですよね。威嚇するのではなく、楽しげにこちらを⾒守ってるみたいで、受け⼊れてくれている感じなんですよ。悪いことできないなぁって思いましたね(笑)。 この⼟地の⼈も同じです。寛容なんですよね。



―滞在中に実施された「ライブペインティング」のイベントについて教えてください。

友⼈のピアニスト・魚住幸正さんと、クラシック演奏に合わせて即興で描くライブペインティングを⾏いました。事前に知識で準備して挑むのではなく、⾳に浸りながら⾃然と⽣まれてくるイメージを作品にしました。
⿂住さんとは今回が2回⽬のイベントで、まさかこの地で開催できると思っていなかったんですけど、絶妙なタイミングが重なり実現しました。⾳源を聞いてくださったお店のオーナーさんが「こんなピアニストさんが来てくれるなら、いろんな⼈に声をかけたい!」と、都城市の⼤きな⾳楽ホールの折込チラシに今回のお知らせを⼊れてくださり、お店のお得意さんに⽚っ端から声をかけてくださったんです。おかげさまで2⽇間ともほぼ満席という想定以上の盛況になりました。
イベント後にはオーナーさんに⾷事会を開いていただいて、お客様とお酒を飲みながら語り合い、地元の話もいろいろ聞けて、めちゃくちゃ楽しい時間になりました。



―アグリテルでの「作品のお披露⽬会」の印象はいかがでしたか?

アグリテルでは、滞在中に制作した作品のお披露⽬会も開いていただきました。
私の友⼈のお茶の先⽣や整体師の⽅が⼀緒にイベントを盛り上げてくださり、えびのに住んでいる⽅々や⼦どもたち、アグリテルに滞在中の⽅、旅⾏で近くまで来られている⽅など、いろんな⽅がお越しくださいました。⿂住さんとのイベントに来てくださった⽅もお披露⽬会にも⾜を運んでくださって、つながりを感じて嬉しくなりました。
お客様に作品をじっくり⾒てもらいながら直接お話できたのも楽しかったですし、東京から泊まりに来ていた⽅とも出会えて「東京とえびのがこうしてつながっているんだなぁ」と実感できました。



Vol.2(滞在中の制作編)に続く。
次回は、⻄⾕さんがえびのの⾃然の中で描き上げた作品たちに迫ります。どんなモチーフを選び、どんな思いを込めたのかーー作品に隠されたストーリーをたっぷりお届けします。どうぞお楽しみに!



西谷直子 Naoko Nishitani

東京生まれ
武蔵野美術大学短期大学部 生活デザイン学科専攻科卒業
‘94.04 グラフィックアート『ひとつぼ展』グランプリ
‘94.10 個展『壁沿いの路』 ピンポイントギャラリー
‘95.06 個展『眠る人々』 ガーディアンガーデン

現在、制作・展示出品のかたわら、音楽とのコラボを通して体験者とともに作品を作るライブペイントの試みを重ねている。

https://www.yorocobito.com/?mode=grp&gid=936313


アグリテル(運営会社:株式会社 terra)

HP: https://agritel-kyushu.com/


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