
「農業体験」と「宿泊」を掛け合わせ、“最⾼にうまい”を体感できる宿泊施設を運営する株式会社Terra様とヨロコビtoとのコラボにより、今回初めて宮崎県・えびの市での「アーティストインレジデンス」が実現しました。
2025年5⽉、1名の作家が宿泊施設「アグリテル」の離れに約1か⽉滞在し、制作を⾏いました。その後1年間、作品は「アグリテル」に展⽰されます。
今回は、滞在作家・⻄⾕直⼦さんと、作家を受け⼊れてくださった株式会社Terra代表の池内学さん・優希さんご夫妻にお話を伺いました。
第2弾では、⻄⾕直⼦さんが滞在中に制作された作品について語っていただいたインタビューをご紹介します。

―滞在中の制作について教えてください。まず、こちらはどういう作品ですか?

朝、松形邸の離れで制作をしていると、南側の窓の外からウグイスの声が聞こえてきたんです。それから、カラスもカーカーではなくコロコロという柔らかい鳴き声でご機嫌に鳴いていて…。1⽇中いろんな⿃の声が聞こえてきました。「どこから聞こえてくるのかな」と思って窓の外を⾒ると、この⼤⽊があって、枝のあちこちに違う⿃が来ては⾶んでいって。その様⼦に感動して、作品にしたいなと思いました。
この⼤⽊は朽ちかけてはいるんですけど、すごくたくましく⽣きていて。枝ぶりもまるでジェットコースターのように上下にうねっていて、それにすっかり魅了され、⽊が与えるエネルギーを⼤きい絵にしたいと思って制作しました。
えびのの⾃然は何百⾊ものきれいな緑⾊でできているんですが、松形邸の中はちょっと暗くて、それをそのまま表現するのは無理かなと思って(笑)。それであえて補⾊を選んで、カラフルに表現しました。
―こちらはどのような作品ですか?

池内さんからトマトを⼤量にいただいたんですが、それがあんまりにもおいしくて、「これはもう描かないと駄⽬だ!」と思ったんです。トマトのおいしさを、こんなごちそうがあるんだよって伝えたくて描きました。本当に絶品で、宿に遊びに来た⼦どもたちも、そのおいしさに⼤興奮していました。
―この絵に描かれているのはサギですか?

そうですね、シラサギです。畑を進むトラクターの後ろをシラサギがちょこちょこついて歩いていて、その様⼦がすごくほっこりして可愛くて。「畑にいるシラサギが描きたい」と思ったんです。
それから、宮崎県には「かりこ坊」という妖怪がいて、⼦どもにしか⾒えない座敷わらしみたいな妖怪だと⾔われているんですけど、もしかしたらその「かりこ坊」は⼈の形じゃなくて、⿃や野菜の形かもしれないな…と想像しながら描きました。
―こちらの作品について教えてください。

えびのでは、ウグイスが本当に綺麗な声で1日中鳴いていて。私、滞在中によくウグイスと遊んでいたんですよ。ホーホケキョやケキョケキョなどいろんな鳴き声で鳴いてくれるんですけど、こちらが⼝笛で真似すると、「いやいや、そうじゃないよ」というみたいに必ず鳴き返してくれるのが可愛くて、ウグイスを描きたいなと思いました。ちょうどピアニストの⿂住さんとのライブペイントのイベントが終わった後だったので、「ピアニスト・ウグイス」ということで、歌って弾けるウグイスを描きました。
―このミニキャンバスのシリーズはどういう作品ですか?


このシリーズは、えびのの花たちが本当に可愛くて描いた作品です。私が住んでいる府中市でも⾒かける花ではあるんですけど、なぜかここの花たちの⽅がとても幸せそうに⾒えて。その幸せそうな感じを素直に描きたくて絵にしました。
(画像①)にはハルジオンを、(画像②)にはクローバーを描きました。(画像③)は松形邸の庭に咲くサザンカやツツジに⿊いチョウが⾶んできて、その⾚⾊と⿊⾊のコントラストが綺麗だな、と思い作品に表現しました。
(画像④)は、宮崎に来たとき最初に⾒た、緑の中をひらひらと泳ぐ鯉のぼりがすごく綺麗で、その印象を描きたいなぁと思い絵にしました。(画像⑤)はタンポポなんですけど、綿⽑に⾍たちが⾶んできているのが可愛いくて、⼦どもが⾍の気持ちになって綿⽑を持っている様⼦を描きました。
―この作品はどういう作品ですか?

えびのに来て「素敵、楽しい」と思ったものを全部描こうと思いました。
(画像⑥)は、えびので⾷べてあまりのおいしさに感動したトマトです。それから⽇向夏、ほうれん草、キノコなど、えびののおいしいお野菜たちをたくさん描きました。(画像⑦)はキクラゲが⽊を持ち上げて歩いているところです。このキクラゲは荷物を持っているつもりになっているけど、実は⿃が⼀緒に運んでくれているんですよ。


それから朝晩に鳴る梵鐘や、お払いしながら空を⾶ぶ⽊の神様、祝福の踊りをしている「⽥の神さあ」、えびののベトナム料理で⼀⼈で頑張っている店主とその店の巨⼤なバラ…。
この⼟地はかつて⾺の産地として有名だったと聞いて、緑の中に戯れる⾺を描きたいと思い、この作品にも描き⼊れました。霧島アートの森でやっていた⾺の放牧の⾵景がすごく良かったんですよね。
そしてこれは「池内さんですか?」と⾔われたんですけど、そういうつもりではなく、「だいだらぼっち」のような巨⼈の妖怪で、⽊の守り神みたいなものをイメージして描きました。

私が宮崎にきて最初に感じたのが「⼭がポコポコまあるい」という印象だったんです。「なんてかわいい形の⼭なんだ!」と思い、絵にしました。以前アグリテルさんのHPに使っていただいた作品も、ポコポコした⼭と、その⼀⼭⼀⼭を⾃分の⼭として管理している個性豊かな⼈たちを描いたものだったんです。その⼈たちは⼭を⽀配するのではなく、それぞれの豊かな⾊合いの⼟地を⼤事にしながら楽しく暮らしていて。今回もその様⼦を表現できればと思いました。

―滞在制作は今までも経験があると思いますが、今回の滞在はいかがでしたか?
とにかく元気をいただきました。私にとって絵を描くことは好きなことなので、これまでも苦痛に感じたことは⼀度もなかったんですけど、今回の滞在制作はなんとも⾔えない開放感で、⼿探りしながら描くような感じが⼀切なかったんです。エネルギーをもらって、それをそのまま⼦どもになったような気持ちで素直に描いてみてもいいんだ、と思えました。それが⼀番⼤きなことですね。ここ、えびのの⾃然の中でゆっくり過ごせたことや、⽇常⽣活から切り離された環境の影響もあったと思います。絵にも「⼒」や「元気」が宿ったんじゃないかな、と思っています。願いも込めてですけど。⾒てくださった⽅から「元気が出ます」と⾔っていただけて、本当に嬉しかったですね。
今回の滞在を通して、本来の「絵を描く喜び」を再認識できました。えびのの⾃然の中で、⾃分⾃⾝もその⼀部になって、感じたままに絵を描く。うまく⾔葉では⾔い表せられないのですが、「観念的に描く」のではなくて、「素直に描く」ということを⼤切にしたいなと強く思いました。

西谷直子 Naoko Nishitani
東京生まれ
武蔵野美術大学短期大学部 生活デザイン学科専攻科卒業
‘94.04 グラフィックアート『ひとつぼ展』グランプリ
‘94.10 個展『壁沿いの路』 ピンポイントギャラリー
‘95.06 個展『眠る人々』 ガーディアンガーデン
現在、制作・展示出品のかたわら、音楽とのコラボを通して体験者とともに作品を作るライブペイントの試みを重ねている。
https://www.yorocobito.com/?mode=grp&gid=936313
