沖縄のホテル「ホルトノキ ホテル&トロピカルガーデン」様とヨロコビtoギャラリーがコラボし実現した「アーティストインレジデンス」も3回⽬になりました。1⽉から3⽉までの間で約2ヶ⽉間、1名の作家にホテルで滞在制作いただき、その後1年間ホテルのレストランにて作品を展⽰いただく企画です。滞在制作いただいた作家の植⽥陽貴さんと、作家を受け⼊れてくださったホテル「ホルトノキ」オーナーの滝本孝⼀さんにお話を伺いました。
前回に続き、今回は植⽥さんに滞在中の作品についてお聞きした内容をご紹介いたします。
―滞在中に制作された作品について教えてください。
これは伊江島という美ら海側から⾒える島を描いたドローイングです。(画像❶)。
初めて見た時からすごい形の島だな、とずっと気になっていて、しつこく描きました。実際に伊江島の内部にも⾏きました。⾃転⾞を借りて島を回り、⾒えている三⾓の⼭のてっぺんにも登りました。引きで⾒ると三⾓の輪郭でしかないけど、実際に⾏ったら意外と広いし⼈も住んでいる。⼭が思ったより緑で、⽯の⼭だけど草もいっぱい⽣えている。実際に⾏ってみて引きで⾒た時の印象も変わりました。
▲(画像❶)伊江島を描いたドローイング
帰り際にフェリー乗り場の側の博物館に⼊って、そこで知った戦時中の歴史も印象的でした。この場所がそこまで占領されていたところなんだというので衝撃を受けました。普段も取材をしながら描いていますが、「知らないものは私は描けない」という思いです。知らないんだったら知らないものとして描きたいと思っています。
沖縄の海は遠浅で、途端に深くなる。それで⼿前と奥で2⾊に別れているんですよね。それを初めに聞いた時から印象的で、描きたいな、と思っていました。境⽬があるのが⾯⽩いな、と。
▲伊江島を描いたペインティング
(画像❷)この作品はヒカゲヘゴを描いた作品です。
⾊やフォルムをいまいち⾃分の絵に引っ張ってこられなくて何枚もドローイングを描きました。てっぺんにめっちゃ枝が出るんですが、その形を追おうとすると絵としてくどくなる。⾃分の絵にどう落とし込むか悩みました。沖縄の草は⻩⾊いので、⾃分の中で嘘がないように描くとなるとやっぱり⻩⾊くする⽅が嘘がないけど、絵にならない…。普段は寒⾊系の⾊を使うことが多いので。
▲(画像❷)ヒカゲヘゴを描いたペインティング
▲ヒカゲヘゴを描いたドローイング
⼀回本物を知っているかどうかは⼤きいと思うので、葉っぱがどうなっているかをドリームセンターという熱帯植物園でちゃんと⾒てきて、現場でスケッチもしてきました(画像❸)。沖縄は冬でも眩しくて、でも⻘空というよりは⽩く眩しい感じがあるので、そういう光も表現しようとしています。
画像❸ ドリームランドでのスケッチ
(画像❹)これはカヤックを描いた作品です。
カヤックに乗っている時点で「これを描こう」と決めていました。カヤックは元々好きなんです。⽔辺は「境界線」だと思っていて、沈んだら死んじゃう。そこに⼀⼈浮きながら境界にアクセスすることができる⼿段なので、船って存在として好きだな、と。カヤックのシリーズは「あわいに船」というタイトルをつけていて、「あわい」は「間(あいだ)」という意味です。普段から境界の「こっち側」と「あっち側」を意識して描いていて、その間を⾏き来できるものとして船のモチーフを使っていますね。沖縄ではマングローブの川で乗ったんですが、乗っている間に⼲潮になっていって、それだけ⽔位が変わるのが初めてでした。終わりには地⾯が⾒えるんじゃないかくらいの浅さで。それも⾯⽩かったです。画⾯に斜めのストロークを⼊れることで⽔が浅い感じと、川の流れを表現しました。
▲(画像❹)カヤックを描いた作品
―作品の中に登場する⼈物について教えてください。
作中に人物を描く意図としては、技術的な⾯では⼈物がいるとそこが視点となり鑑賞者が画⾯に⼊りやすいように、というのはあります。それ以外だと⼈は「⼈の形の何か」だと思って描いていて。気配を感じさせるための装置というか。⾃分が取材に⾏けるところは⼈間がいけるところでしかなくて、そこに住んでいる⼈や亡くなった⼈がいて歴史がある場所だと思うんですよ。だから画⾯にも何かしらの気配が出てきた⽅が良いかなと思うんです。描いているのは「誰」というよりは「誰か」。もしくは⼈間かどうかわからない霊的なもの、⾃分側ではないもの、他者、⽣きていない⼈、というイメージです。⼈物の⽬は最後に描くかどうかを決めているんですけど、⽬があった⽅が怖い絵ってあるじゃないですか。あまり明確に描き分けている訳じゃないですけど、不気味な絵ほど⽬があります。こっちを見ている⼈の⽅が話が通じない感じがしませんか?
―技法や画材について教えてください。
画材は油絵の具を使っていて、キャンバスサイズの作品になると筆として使っているのは刷⽑がほとんどです。ドローイングもストロークを出すところは刷⽑を使っています。刷⽑で描いてから抜いている部分もあります。この辺(画像❺)の光の表現も先に緑で潰してから絵の具とテレピン(無⾊透明で揮発性の溶き油)をタプタプにした筆で抜きながら描いています。絵の具を重ねずに描いている理由は「飽きるから」が⼀番⼤きくて。(笑) 油絵の具は薄く伸ばしても顔料が定着するので、それが好きなのもあります。伸びた感じの⾊が好きなんです。インディゴとかは伸ばすと⻘⾊が出てくるのも好き。あと筆致が出ているのも好きです。気持ち良いので。
▲(画像❺)
―ホルトノキでの制作の成果を教えてください。今後の制作へ影響はありますか?
これまでも⾊々なところで滞在制作をしましたが、沖縄は修学旅⾏以来です。沖縄の⾊は描くのが難しかったですね。でも苦労するのは楽しいんです。⼿グセじゃなくなると⾔うか。「こうやったら絵になる」と決めつけてしまいそうなところを毎回疑う。描けないものを描こうとするのはしんどいけど⾯⽩いです。ホルトノキでの経験が今すぐ作品に大きく影響するかはわからないですが、今後の制作活動の出汁にはなってくると思います。⼀回⾏った場所ってまた⾏けるような気がするんですよ。縁ができる。今回は滞在期間が⻑かったので特にその縁が強い気がして。「また来る気がするなぁ」と思っています。「親しい場所」が増えていくのは嬉しいです。
次回は、ホテル「ホルトノキ」オーナーの滝本孝一さんのインタビューをご紹介します。Vol.3もお楽しみに!
植田陽貴 Haruki Ueda
画家。
1987年生まれ。奈良県出身在住。
女子美術大学短期大学部専攻科修了。
「”境界”とそれを越えようとすること」を主題に絵画制作を続けている。
近年は自身がその場所に立った時の、風の強さや光の眩しさといった肌感覚を絵画表現に落とし込むことを試みている。
主な受賞歴にFACE2023 損保ジャパン日本興亜美術賞 優秀賞(2023)、
女子美 制作・研究奨励賞(2023)など。
https://www.yorocobito.com/?mode=grp&gid=2894192
投稿日:
沖縄のホテル「ホルトノキ ホテル&トロピカルガーデン」様とヨロコビtoギャラリーがコラボし実現した「アーティストインレジデンス」も今回で3回目になりました。1⽉から3⽉までの間で約2ヶ⽉間、1名の作家にホテルで滞在制作いただき、その後1年間ホテルのレストランにて作品を展⽰いただく企画です。
今回滞在制作いただいた作家の植⽥陽貴さんと、作家を受け⼊れてくださったホテル「ホルトノキ」オーナーの滝本孝⼀さんにお話を伺いました。第⼀弾として、今回は植⽥さんのインタビューをご紹介いたします。
インタビューに答える植田さん
―ホルトノキでの⽣活について教えてください。
滞在期間の前半は⾞を借りて沖縄をあちこち⾒て回りました。ホテルで飼われている⽝のジュネの散歩を頼まれることもあり、ジュネの進むがままに歩いていました。海が⾒える道の時もあるし、お友達の⽝がいるところまで⾏く時もあるし。美ら海までも歩いて⾏きました。あとはおおむね沖縄そばを⾷べていました。(笑)沖縄そばは⾃分でも調べたり、ホルトノキの滝本さんと奥さんの紀⼦さんに聞いたり、出会った⼈におすすめを聞いたりもしました。ホテルのお客さんとコミュニケーションを取る機会もありましたね。滝本さんの知⼈の⽅々が泊まりにいらしていた時に紹介していただいて、絵を描いている話をしたり沖縄そばを教えてもらったりしました。滝本さんと奥さんの紀⼦さんはフランクなんですが、絶妙な距離をとってくれる。めちゃくちゃ⼲渉はしてこないけど話しかけたら答えてくれる。優しいですね。押し付けがましくない優しさや居⼼地の良さがあります。
↑植⽥さん作「沖縄そばリサーチ」
―ホルトノキでの制作はいかがでしたか。制作する⽇の1⽇の流れは?
制作については、ドローイングだけは毎⽇描きながら暮らしていて、3⽉に⼊ってからペインティングに取り掛かりました。ペインティングを制作する⽇は朝9時か10時に起きて、天気予報を⾒て、お湯を沸かして飲んで、晴れていたら30分くらい歩いて具志堅ビーチまで⾏っていました。そこのコンビニでコーヒーとサンドイッチを買って、ビーチで朝ご飯を買ってぼんやりしてから帰ってくる、と⾔うのをルーティーンにしていました。帰ってからゆっくりして、ドローイングを描いたり本を読んだり。結果、ペインティングの制作は夜からになることが多いです。時間を決めて、と⾔うのではなく⽣活の延⻑で描いている感じですね。⾃然体でやっていました。
滞在中に描き溜めたドローイング
ブランチを食べた具志堅ビーチ
▶︎Vol.2 (滞在中の作品編)に続く
次回は滞在中に制作された作品についてのインタビューをご紹介します。植⽥さんの制作にかける思いから、画材や技法などについても詳しくお聞きできました。お楽しみに!
植田陽貴 Haruki Ueda
画家。
1987年生まれ。奈良県出身在住。
女子美術大学短期大学部専攻科修了。
「”境界”とそれを越えようとすること」を主題に絵画制作を続けている。
近年は自身がその場所に立った時の、風の強さや光の眩しさといった肌感覚を絵画表現に落とし込むことを試みている。
主な受賞歴にFACE2023 損保ジャパン日本興亜美術賞 優秀賞(2023)、
女子美 制作・研究奨励賞(2023)など。
https://www.yorocobito.com/?mode=grp&gid=2894192
投稿日:
スガミカ展『Play house』
2025年1月7日(火)〜1月26日(日)
平日11:30〜19:30 土日祝日11:00〜19:30
月曜休
※祝日の月曜日も休廊します。
▶︎【オンラインショップ】スガミカ展の一部の作品の販売・公開はこちら
【作家在廊予定】
※都合により在廊日時は変更になる場合がございます。
・1月 7日(火) 14:00-19:00
・1月11日(土) 12:00-19:00
・1月12日(日) 13:00-19:00
・1月18日(土) 13:00-19:00
・1月19日(日) 13:00-19:00
・1月24日(金) 13:00-19:00
・1月25日(土) 13:00-19:00
・1月26日(日) 13:00-19:00
「おしまいとはじまりは永遠に続いている気がする。生まれてくること、眠りにつくことすべてが愛しく、不可思議なことにクスッと笑ってみたり。そんな自分自身の“Play house”(小さな劇場)で幕を開け、もうひとりの自分と遊ぶことができれば、それはとても素敵なんじゃないかなと思う。」生まれてくる愛らしいもの。枯れて次へ向かうもの。それらは相反するようで地続きにあるという彼女の死生観のもと描き出されるのは、玩具や人形など「劇場」の役者たち。そのあどけなくもアイロニカルな微笑みが鑑賞者を射抜く。
作家プロフィール
投稿日:
井澤由花子展『光は自由に行き来し、血管は私をめぐる』
2025年1月29日(火)〜2月16日(日)
平日11:30〜19:30 土日祝日11:00〜19:30
月曜休
▶︎2月9日(日)「ティータイムのトーク型鑑賞会」開催のお知らせ・参加ご希望の方はこちら
「その森を抜けていくと小さな泉があった そこにいたのは私の子供たちのはずだった
葉のささやきと水の色 細胞に境界はない 光は自由に行き来し、血管は私をめぐる」
井澤由花子は子を宿した時、自身の内側にある世界に人が住んでいると強く意識した。本展では、子が胎内で見る世界を描いた作品群と、子供たちの成長や日々の営みを抽象的に表現したドローイング作品を出品する。行き交う色彩の森は僅かな熱と湿度を帯び、どこまでも深く鑑賞者を包む。
協力:
パトロンプロジェクト
作家プロフィール
投稿日:
ダイモンナオ展『記憶のかけら』
2025年2月19日(水)〜3月9日(日)
平日11:30〜19:30 土日祝日11:00〜19:30
月曜休
※祝日の月曜日も休廊します。
「ダイモンナオは自身が運営する京都の町屋空間「草と本」にて「お絵描き会」を主宰している。参加者には物をよく見て上手く描くのではなく頭の中に浮かんできた色をそのまま紙にのせ想定外の作品が仕上がる面白さを味わってもらうという。そのなかで、作家も自分の内に生まれてくるイメージを自然に任せて描くようになった。形の連なりや色彩の響きを思いつくまま紙にのせ、遊ぶように自由にのびやかに描く。ダイモンナオの「記憶のかけら」は純度を保ちながら紙の上で心地よく繋がっていく。
投稿日:
クリスマス特別企画展
『10 ARTISTS OF SANTA CLAUS』
10人が描いた “アートの贈り物”
2024年12月11日(水)〜12月25日(水)
平日11:30-19:30
土日祝日11:00-19:30
※月曜定休
クリスマスと冬の季節の “贈り物”のために描かれた宝物のような作品が作家10人のアトリエから届きました。
手のひらに乗るようなかわいらしい小品や棚や壁へ飾るのにも程良いサイズや
プライス帯の作品を中心にクリスマス期間限定で展示販売いたします。
★店頭でお買上げいただいた作品は、会期中の12月20日(金)以降に限り、
ご来廊によるお引渡しやお持ち帰りが可能です。
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【出品作家】(50音順)
越後しの/えんどうゆりこ/楓真知子
木村友美/シバタリョウ/しまむらひかり
玉川桜/西谷直子/ミヤギユカリ
※出品予定でしたイケガミヨリユキ様は作家体調不良により出品中止となりました。楽しみにしていただいた皆様にはご迷惑をおかけしますが、何卒ご了承ください。
▶︎詳細はこちら
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【作家在廊予定】
※在廊日時は都合により変更になる場合がございます。
※在廊日時の追加については決まり次第随時お知らせいたします。
●えんどうゆりこ
・12月18日(水) 13:00-15:00
・12月25日(水) 16:30-19:30
●楓真知子
・12月15日(日) 14:00-17:00
・12月21日(土) 14:00-17:00
●シバタリョウ
・未定
●西谷直子
・12月11日(火) 13:00-15:00
・12月14日(土) 15:30-18:00
・12月18日(水) 15:30-18:00
・12月25日(水) 13:00-18:00
●ミヤギユカリ
・12月18日(水) 14:00-16:00
投稿日:
ただあやの展『Boundaries』
2024年11月20日(水)〜12月8日(日)
平日11:30〜19:30 土日祝日11:00〜19:30
月曜休
【作家在廊予定】
※都合により在廊日時は変更になる場合がございます。
・11月20日(水) 11:30-18:00
・11月23日(土祝) 11:00-18:00
・11月30日(土) 11:00-18:00
・12月 8日(日) 14:00-18:00
「世の中の“わたし”や“わたしの物”という感覚の範疇が狭くなり続けているように感じる。
そんな世界で“わたし”は守られ、そして孤独である。いつか“わたし”が土に戻る時、確かに孤独はなくなるが、同時に“あなた”もいなくなるのだと思うと、今ある境界が少し愛おしく感じられる。」本展では、ただあやのが境界と孤独について考え描いた新作絵画を中心に、陶製作品や初のレプハド技法による金属板作品も発表する。作家が深く澄んだ色彩で紡いだ線と点の集積は姿形を成し、鑑賞者に静かに寄り添う。
作家プロフィール
投稿日: